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クラウドはあらゆる人間の叡智を吸収する

2010年9月2日

今日はクラウドが何をもたらすのかについて、特に、ユーザー系SIerというビジネスにからめて話をしてみたい。

常に小会社を必要とする日本の会社

クラウドの話をする前に、まず一般的な小会社とはどのようなものか考えてみる。

なぜ大企業は子会社を作るのか、その理由の一つはポストを作るためだ。会社が大きくなって採用する人間が増えていくと、管理職も増えていく。しかし、いつまでも管理職のままとどまっていてもらっては会社としては困る。かといって、役員のポストは数が限られているので、誰かを役員にするためには誰かを追い出さなければならない。(だから、「ポスト」というのだ)うーん、困った。そういう時に便利なのが小会社の管理職または役員というポストだ。会社にとっても、その管理職社員自身にとってもメリットがある。

小会社を作ることによるメリットはもう一つある。人事考課のシステムを独立させられる、つまり、給料に差をつけることが容易になるということだ。親会社と子会社では通常全く異なる給与体系が採用され、支払われる給与は雲泥の差だったりするのはよくあることだ。親会社から転籍してきた役員はそもそも経営者なので給与体系は従業員とは独立しているし、出向してきた管理職社員は親会社の給与体系なので、そのような会社間の給与体系の違いによる影響を受けない。まったく良くできたシステムだ。

本業とそうでない業務を切り離したいという理由もあるだろう。特にSIという仕事は、本業とは全く異なるスキルが要求されるので、切り離すことによって役割や責任を明確にできる。小会社は親会社の仕事をしながら、あわよくば一般先にも手を伸ばすことができる。

他にも税金対策という側面があるのかもしれないが、私は税制に詳しくないので省略させていただく。

背景にある解雇規制

日本の社会がこのようなシステムに落ち着いた背景には、厳しい解雇規制がある。日本では会社側の都合で解雇するということが厳しく制限されている。だから、増えすぎた管理職を解雇することができない。また、雇用流動性がないから、労働市場で給与水準が決まるということもないので、企業は自分の内部で給与体系を決める必要が出てくる。同じ会社の中で露骨に給与に差をつけることはできないので、給与水準の違いを親会社・小会社の壁で隠蔽する。

ちょうど先週の週刊ダイヤモンドは「解雇解禁」という特集が組まれていたのだが、「2010-08-25 – 労務屋ブログ(旧「吐息の日々」)」を読んで、買う気をなくしたので結局読んでない。

ユーザー系SIerというのは親会社から独立してできたシステム子会社だ。元々は親会社自身が自社の中でシステム開発を行っていた(いわゆる内製)のだが、システム部署を独立させて小会社にしてできたのがユーザー系SIerだ。

こうしてSIの仕事を本業とは分離させ、管理職のポストを確保し、社員の給与を削減する。一石三鳥。

効率のよいシステム開発を目指すアメリカ

ところが、アメリカにはそのような「SIer」という業種が存在しないという。アメリカには解雇規制がないので、必要に応じて労働市場からSEやプログラマーを雇えばよいし、管理職が要らなくなれば解雇すればよいので、小会社にする必要がないのだ。

しかし、ここで疑問がわく。小会社を作るもうひとつの理由、本業とそうでない業務をわけるという理由については、どうだろうか?なぜアメリカではSIという仕事が本業と分けられていないのか?それはシステム開発という業務そのものの性質に起因する。

プログラムはひとりで作るのが一番効率が良い。複数の人間で一緒につくると、相手が開発している部分のことも理解しなければならないので、コミュニケーションが必要になり、かえって作業が増える。自分でプログラムの仕様を考えて、自分でコーディングして、自分で使うのが理想というわけだ。オープンソースのプログラムなんてまさに理想を体現したものだと言えるだろう。究極の内製の姿だ。

また、システム開発で最も難しい作業は「要件定義」だ。ユーザーがどんなシステムをほしがっているのかというのは、実際目で見て触ってみるまでわからない。システムが出来上がる前に要件を定義することは実質的に不可能なのだ。ユーザーがあいまいな仕様を元にSIerにシステムを発注し、要件の変更に振り回されて失敗するプロジェクトは過去にどれだけあっただろうか。

アメリカにSIerという業種がないのは、良いシステムを作るためには内製が一番よい、あるいは、外部に委託できるほど厳密に要件を定義する事が不可能だということを、会社の役員レベルの人間が理解しているからだ。日本では良いシステムを作ることよりも、いかに管理職のポストを用意するかとか、人件費を減らすかの方が重要なのである。(必ずしもそれが悪いことだとは考えていない。解雇規制があるから、そっちを重視せざるを得ない側面がある)

しかし、今、そんな日本型SIerビジネスにも逆風の波が押し寄せてきている。それがクラウドだ。

クラウドの波

クラウドがPaaS(Platform as a Service)の段階までであればまだましだ。安価にハードウェアが調達できるようになるのでSIerとしてはカスタムソフトウェア開発という本業部分に予算を割り当てられるようになり、むしろメリットもあるのではないか。しかし、さらにその先、クラウドがSaaS(Software as a Service)にまで及んだとき、SIerはいったいどうなるのか。

これまでシステム開発といえば、要件定義から始まり、分析、設計、実装、テストという工程を経て、ようやく使えるようになるものだった。一方クラウド時代のシステム開発はどうだろう。既にあるシステムを比較して一番よさそうなものを選び、ただ使用開始ボタンを押すだけだ。使ってみてダメならその時に別のものに変えればいい。そこにはこれまでのシステム開発で要求されてきたプロジェクト管理やプログラミングといったSIのスキルは全く必要ない。

良く考えてみれば、今までだってそうだった。10年ほど前から、システム開発を一からやるのではなく、既に開発されたパッケージを導入して、自社に合わない部分を多少手直しするという流れに変わってきていた。パッケージはいろいろな会社で使われているだけに、様々な場面で要求される機能が実装されており、自分たちで開発するよりもはるかに高機能なのだ。

それでもパッケージはある程度大きな会社しか利用できなかった。それがクラウドになると、ロングテール(中小企業)にまでターゲットを広げることができるようになる。インフラコストは仮想化・集約することで限りなくゼロに近づけることができるし、ソフトウェア開発のコストもユーザ数が増えればそれだけ下がるからだ。

はたして、内製は良いシステムを開発するための一番いい方法だったのだろうか。いや、それは間違いだった。

ユーザーと小会社だけの、井の中の蛙同士で議論をしても、せいぜい「良いシステム」は作れても、「すばらしいシステム」は生まれない。真のユーザーニーズを見極め、徹底して性能を追求し、高機能を提供するためには、ユーザー側にもシステム開発側にも高度なスキルと幅広い知識・幾千もの修羅場をくぐり抜けた経験を持った人間が集まる必要がある。そして、そのような人間をどれだけ集められるかが「良いシステム」と「すばらしいシステム」のボーダーを分けるのだ。

クラウドは単にハードウェアやソフトウェアだけを一カ所に集約するものではない。そこにはあらゆる人間の叡智が結集していく。

SIerは駆逐され、クラウドは膨張する

便利で使いやすく、使った分だけしか費用がかからない安価なシステムが、いくらでも雲の向こうにある時代になれば、もはやユーザー系SIerにすることは何もない。クラウドの向こうのシステムの比較は親会社であるユーザー自身が行うことになるだろう。ここでは、日本型の親会社・小会社の役割分担明確化機能が有効に働く。

そうなれば、ユーザー系だけでなく、独立系SIerも等しく仕事を失うだろう。

いずれ、クラウドにすべてが集まっていけば、ユーザー系SIerという業種は駆逐されるか、良い結果になったとしても、全体のパイは縮小することになるだろう。逆に、SIerが縮小された分だけ、クラウドが膨張していく。

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From → 科学技術

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